コミュニティーの創造と
そのマーケティング活動

 特定のジャンルやテーマを深掘りするコンテンツをもとにコミュニティーをつくる。朝日新聞社が新たに始めたバーティカルメディアプラットフォーム「ポトフ」は、従来のターゲットマーケティングと何が違うのか。企業は何を期待するのか。マーケティング関係者が語り合いました。

〈登壇者〉
  • 花王株式会社 デジタルマーケティング部コミュニケーション企画室室長 板橋万里子さん
  • キリン株式会社 デジタルマーケティング部 加藤美侑さん
  • Still Day One合同会社 代表社員 パラレルマーケター・エバンジェリスト 小島英揮さん
  • 朝日新聞社 総合プロデュース室 三橋有斗
  • モデレーター 株式会社スケダチ 代表 高広伯彦さん

高広 同一の興味関心をもっている人に絞ったコンテンツで話題を活性化させ、コミュニティー化を目指す。そんなポトフの試みについてどう思いますか。

小島 私がマーケティングでコミュニティーを使うときは、マスメディアに対するアンチテーゼ的なアプローチになります。それを朝日新聞がやるのは大胆だし、練られた意図があるのだと思います。

三橋 今まで朝日新聞は、同じ情報を広く伝えることを生業にしてきました。ポトフはその逆で、ある特定の人だけ満足してくれればいい、というメディアをたくさんつくります。

小島 関心軸が狭いほど身内意識は生まれますが、その分、収益化は難しくなります。関心軸をどう設定するかが一番のポイントですね。また今までのメディアはオーディエンスが受け身で、能動的に発信する設計はありませんでした。「telling,」のように、コンテンツに対してみんなが能動的に語り出す流れは面白いと思います。

加藤 非常にエッジの効いたメディアで、広告主側としても期待しています。とくに「DANRO」はビールと相性が良さそうだと思いました。

板橋 デモグラフィックではなく、興味関心軸でコミュニティーをつくるという、ありそうでなかったメディアにおおいに期待しています。

 

高広 テーマやセグメントはどのように決めているのですか。

三橋 まずはある一定期間までに収益化できそうなテーマを選びました。今後は認知症や大学スポーツをテーマにしたものなど、20程度のメディアを予定しています。

高広 今はDSPやDMPを使い、メディアに関係なくターゲットに広告を配信できます。そのようななか、ポトフの意義はどんなところにあるのでしょう。

小島 現在のマーケティングテクノロジーは、情報を届けるところまではできますが、その後の行動変容までは難しい。でも多くの企業は、ブランドを知ってもらうことより、商品を買ってもらうこと、行動変容を求めています。その点で、ユーザーと同じ目線に立つポトフには、従来のターゲティングメディアにはない可能性を感じます。

三橋 私どもが得意なのは、しっかり読んでもらえるコンテンツをつくること。その力を生かし、読者の心に深く刺さり、行ってみたい、買ってみたい、発信したいと思ってもらえるコンテンツを記事、広告、タイアップ、スポンサードコンテンツでつくっていきます。ターゲティング広告はターゲットに配信できても、実際にクリックする人は限られています。私どもはメディアをコミュニティー化することで、クリック数とは別に、行動に何らかの変化を及ぼすことを目指しています。

高広 メディアエンゲージメントという言葉がありますが、読者は自分が信頼するメディアのコンテンツはしっかりと読みます。ポトフは、きちんとコンテンツを読む層を束ねるメディアになる気がします。

三橋 ポトフの記事は比較的、長文でもしっかり読んでもらえ、ユーザーの滞在期間も長いんです。「sippo」はファンが多く、半分以上の方が再訪してくれています。

小島 最近はリーチ数のことばかり言われ、メディアの信頼性がなおざりにされています。信頼性の高いメディアが、関心軸でその機能を再編集することで、よりよいエンゲージメントが生まれるのではないでしょうか。

加藤 同感です。ただ信頼できるメディアかどうかはどうやって測るのでしょう。

小島 現段階では信頼の数値化は難しいですね。コンバージョンやクリック数など、見える数値だけ追うと、エンゲージメントを見逃す可能性があります。私はコミュニティーの熱量をはかるうえでは、オフラインの会合を大事にしています。

板橋 企業はリーチ数ばかりに目がいきがちですが、何のための施策なのかを常に問い直すことが大事だと思います。

小島 物が売れないこれからの時代は、数字に現れにくい部分こそきちんと考える必要があります。

 

高広 その一つがコミュニティーですね。

小島 多くの人は広告ではなく、まわりの人の意見に影響されて買う物を選んでいます。属性が似ている人はつながっていることが多いし、今はSNSで口コミの拡散力が圧倒的に大きくなりました。ファンを中心にコミュニティーをうまく形成すると、客から新しい見込み客へ伝わり、的確にターゲットにリーチし、行動変容につながります。これは非常に有効なマーケティングです。それだけに大事なことは、まずブランドのファンをきちんとつくることです。

加藤 私もファンを大事にし、ファンから広げていく手法は、安定した収益基盤をつくるうえで非常に有効だと思います。

板橋 弊社は2007年から新米ママ向けのコミュニティーを運営しています。そこでは弊社の商品を私どもが思ってもいなかったようなかたちで好意的に解釈してくれたり、積極的に宣伝をしてくれたりするブランドのファンが現れています。

高広 それこそコミュニティーがなせるわざですね。いっぽう、アジェンダ設定が得意で、信頼性、正確性、継続性があるメディアがつくるコミュニティーには、何を期待しますか。

小島 そのムーブメントが正しいと肯定し、大きくなるのを加速する役割ですね。スタートアップの投資家のようにいい種をみつけ、アクセラレーションする。そういった意味では、どんな文脈がいま求められているのか、どの関心軸にするかの目利きが重要です。

板橋 メディアのコミュニティーの価値は、やはりコンテンツのレベルや発信力にあると思います。私どもがそこにどういうかたちでかかわり、読者にとっても私どもにとっても有益なコンテンツをいかにつくるかが課題だと思います。

高広 海外のメディアでよく見るスポンサードコンテンツは、テレビの提供番組のように、メディア側がコンテンツをつくっています。あのようなやり方も有効かもしれませんね。

加藤 いずれにしろ、これまでのリーチ重視のやり方だと、万人受けする記事になってしまいます。ポトフにはコミュニティーのことを常に考えてメディアをつくっていってほしいですね。そういうメディアが増えると、私たちもメディアを選びやすく、出稿しやすくなります。